西洋美術史、ビザンティン美術
世界史、美術
「有名な画家●●の作品が新たに見つかりました。×××年の作品です」というようなニュースを聞くたびに、「どうしてその人の作品で、その年の作品だと分かるんだろう?」と常々疑問に思っていた「教授の授業」取材班は、愛知教育大学の浅野和生先生の研究室を訪問しました。
浅野先生の専門は、西洋美術史です。美術を「見る」専門家と漫画が大好きな人の共通点とは?
絵っていうのは、「その絵を描いた人にとっての見えている世界」だと思います。美術史は、昔の人の絵を見ることで、「その時代の人間と世界との触れ合い方」「人間がどういうふうに世界を見ているのか」というのを知る勉強だと思います。美術史のおもしろさは、昔の人が描いたものと直接触れ合えるところだと思うんですね。昔の人と対面する感じです。これは感動があると思います。
はい。僕の授業では、全員に感想や質問をメールで送ってもらっているのですが、そのメールを見ると、「高校までは、歴史の授業はともかく覚えるというのが主だったけれども、そうじゃなくて、見て考えるので面白い」という感想を持つ学生がけっこういますよ。
文化や芸術に興味があれば、絵が描けるかどうかというのは全然関係ありません。絵は苦手でも問題ないですよ。僕自身で言うと、文化歴史全般に興味があったので、大学で選択するときに、美術史と文学史と音楽史の中から、「どれにしようかな」と思って美術史にしました。さかのぼると、小学校のときから、美術とか音楽とか文学とかが好きでしたし、ヨーロッパにも憧れがありました。中学校では展覧会やコンサートに行ったり本を読んだりしていました。高校では、1日4~5冊くらい、興味のある本を読んでいました。美術や音楽は得意科目でしたが、つくったりせず、「見る」のが好きでした。だから、美術方面からというより、文化や歴史方面から、美術史に入ったと言えます。
調べることをします。例えば、「この絵は1435年に描かれた絵だ」と本に載っていたりしますよね。それはなぜ1435年と言えるのか。僕たちの仕事は、「1435年」と本に書かれるまでの部分、調べるところをやるのが仕事です。
警察が事件を調べるのと、やり方がほとんど同じこともあります。警察が、つい5時間前に起きたことを調べるとしたら、僕たちは、何百年も前に起きたことを調べているだけです。関係者(作者など)や物証(美術品など)を調べ、立場や利害関係を踏まえ、嘘をついている人がいないかなどを調べます。資料に書いてあるから正しいとは限りません。絵の注文書や、絵で儲かって税金をたくさん払った記録なんかがあると、分かりやすいですが、地道な作業ですよ。幅広くいろいろな事実を寄せ集め、矛盾がないかを確認します。
また、美術史独特のやり方だと思うんですけど、「様式」つまり「絵のスタイル」からも調べます。例えば、漫画が好きな人は、毎週買っている漫画雑誌をぱっと開いたら、タイトルページを見なくても、誰の何の作品かわかりますでしょ?それは様式で判断しているからなんですね。同じ漫画家の絵でも、絵柄って変わっていきますよね。昔の単行本と、今の単行本と、その間に発行されたたくさんの単行本の中から数ページずつ抜き取って、バラバラにたくさん並べられても、熱心なファンなら順番に並べられませんか?漫画ファンのかなり多くの人はそれができるはずです。「AとCの年代が特定できたら、じゃあBはその間だから、これくらいの年代」と推測したり。こういう方法で割り出すというのは、美術史独特ですね。
絵の注文書や税金を払った記録などに比べると、様式の特徴というのは、客観的な証拠みたいなのはなかなか出しにくいところですけれども、並べてみて、みんなが納得すれば落ち着きます。漫画と同じで、その時代や作者への熱心なファンならわかりますが、そうでないとわかりません。熱心なファンだと、漫画のコマの中のアシスタントが描いた部分とかもわかりますよね。美術作品も、ある絵の中で助手が描いている部分を見分けるのは、目です。僕も、ビザンティンだったら見ればわかりますけど、ルネッサンスとかバロックとかだと分からないですね。漫画ファンと僕たちはやっていることは同じなんですよ。ただこれは、マニュアル的なものではなく、自分の中に何かがたまっていかないと出来ないことで、確証も出しにくい。主観とも客観とも分けづらいです。
大学になると、どうしても自分の専門が決まってきて、それを深めないと卒論もなかなかいいものを書けない。だけれども、できるだけ広く興味を持つこと、教養が大事だと伝えたいですね。たくさん本を読んで欲しいです。そして、社会のことに広く目を向けてください。例えば選挙になれば真剣に考えて投票するべきだと思います。
愛知教育大学 「造形文化コース」へ進学してください。
詳しくは、参考リンク先等をご確認ください。
■このページの情報は、2009年9月の取材を元に作成された情報です。
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ともかく、たくさん美術品を見ることです。美術展でも図書館の美術全集でも、たくさん見てください。
大学では、教員は研究者です。そして学生も研究をするわけで、「いっしょに研究する同志」と僕は思っています。「大学の先生の持っているものを自分も吸収してやるぞ」みたいな意気込みでやってもらいたいですね。僕もつい最近、78歳で現役の恩師に会って来たばかりですが、大学院まで行くと、本当に一生のお付き合いになるんじゃないでしょうか。
大学時代は大いに楽しんだらいいと思うんですけれども、少し厳しいことを言うと、日本が大学の教育全体にかける予算は、OECD加盟国の中で下から数えた方が早いくらいで確かに少ないです。ですが、学生1人当たり税金が年間250万円くらい使われているんですね。ひと月約20万円のお給料を国からいただいていると考えてもいいわけです。学生の本分は勉強だと言いますが、普通の人が仕事するくらいには、勉強しなさいと言いたいです。そしてがんばって、社会に出て、役に立つ人間になって恩返しをしなさい。
狭い範囲で言うと、大学の予算がどんどん減ってきていることに危機感を感じています。先進国の中で日本だけ減っている。数値で言うと、西暦2000年の大学の予算を100とした場合、2005年にはアメリカイギリスフランスなどは130や140くらいになっているんですが、日本だけが、93くらいに減ってしまい、今も減り続けています。研究もやりにくくなっている感じがします。しかしそれは、社会が許容しているわけですよね。そういったことを続けていると、日本は技術立国として立ちいかなくなってしまいます。例えば、中小企業で、その分野ではその会社しかできないという技術を持っているところが、中国に買収されたりしているわけです。それはもう、日本にあっても中国の企業なんです。日本は衰えつつあって恐ろしいなぁと。
客観的に見て、日本には科学技術しかないと思います。科学技術は確かにお金がかかっちゃって、「その成果はいつでるの?」ということもあるんですけれども、だけれども政治家には、国の将来を見て欲しいです。政治家がもっと長い目で見ないと困るなぁと思いますね。
大学に行って勉強を続けたい人は、その大学に合格できるだけの勉強をしないと仕方がないです。僕は、高校のとき、理系はぜんぜんダメだったんですよ。数学とか物理とか化学とか、いつも1や2だったんです。そんな僕だってある程度は数学を勉強したわけですけど、しなければ大学に行って自分のしたい勉強ができないと思えばしょうがない。全国模試で数学はいつも偏差値40台でした。でも国語と英語は80台でした。当時は、今のセンター試験とは違う制度の試験でしたので、これはノウハウではないのですが、数学は0点でも(あとで見たら0点ではありませんでしたが)、国語と英語と社会で点をとって合格するようにと思って勉強しました。つまり、「自分がどうなりたいか?」を考え、「高校や大学をステップアップのためにどう役立てるか?」と考えて勉強すればいいと思いますよ。先生の言うこと全部やらなくても。