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すべての教科の学びの基礎です。

愛知教育大学 生活科教育講座

野田 敦敬 教授 Noda Atsunori

生活科、授業づくり

「小学校のときの生活科って、楽しかったよね!」「うん、楽しかったね!」…と、この会話が成り立つかどうかで、世代が判定できてしまうかもしれません。「生活科」は、これから大学進学や教員になる道を探る世代のみなさんにとっては、小学校1、2年生で受けた記憶があるはずのあたりまえの教科ですが、全国で実施されたのは1992年(平成4年)から、という新しい教科です。

「生活科」を受けていない世代の「教授の授業」取材班は、「生活科ってなんだろう?」とよく分からないまま、愛知教育大学の野田敦敬先生の研究室を訪問しました。そんな頼りない取材班なのに、2009年現在、生活科を専門的に学べるのは、愛知教育大学が唯一の場所であると知るのでした。

生活科を専門に学ぼうとしたら、ここしかないんですね。

小学校の教員としての専門領域を生活科にしようとしたらそうですね。愛知教育大学の生活科教育講座には、専任の教官が僕を入れて3名います。中学校免許としては、僕の研究室では理科が多いですが、国語や社会の免許をとる学生もいます。生活科だけを専門にすることはできませんよ。卒論のときには、小学校低学年に焦点を合わせた卒論を書くことになります。大学院もありますので、学部生が進学したり、現職の教員を受け入れたりしています。

卒論では、どんなことをテーマにするのですか?

卒論のテーマは、学生が自分で決めるのですが、例えば、「子どもたちの季節感はどれくらい定着しているか」というテーマで、小学校に協力依頼をして、全学年・全クラスでアンケート調査をしたり。「どういうおもちゃをつくるとどんな力が伸びるのか」というテーマで、実際におもちゃをつくってそれをデータベース化したり。そのおもちゃに対しては既に、小学校の教員から「使いたい」という依頼もあったんですよ!

生活科との出会いを教えてください。

僕は、小学校の教員を14年間勤めていました。専門領域は理科です。大学院時代は、低学年理科の研究をしていて、ちょうど昭和58年頃、生活科が発足しだすという動きがあったんですが、「生活科反対」という立場で修士論文をまとめました。平成元年に生活科が教科として出来たときは、理科や社会からの反対の声がすごく強かったですし、その次の学習指導要領の改訂でなくなるだろうと言われるほど、根強い反対がありましたね。その平成元年に僕は、たまたま小学校1年生の担任になりまして、これは運命だと思いますけど、生活科の実践研究者の立場で授業を行うことになったんです。生活科反対の立場だったのに、生活科を率先して実践する立場になりました。その後、小学校高学年の授業を受け持ったときですが、教員としての幅がすごく広がったと感じたんです。生活科の理念というのを大事にしたいなと思いました。

生活科の理念とはなんですか?

生活科では、「朝顔の種をまきましょう」ではなく、「どんな植物を育てたいかを考える。苗選び」からスタートします。これは子ども主体という理念に基づくものです。また、昔だと、学校帰りに道草なんかして体験できたことが、今は体験しづらい社会にもなっていますので、体験不足を解消するのも重要で、街や学校の中を探検したり、そこにいる人たちとやり取りする中で、コミュニケーションする力を養います。体験重視です。体験を通して、学びの基礎をつくり、自立への基礎を育てます。身近な人や自然との関わり方を学ぶのが大事だと考えています。

学生が言った言葉ですが、生活科とは、「学校を楽しむ」「季節を楽しむ」「地域を楽しむ」とも言えます。生活科の学校探検では、安心できる場所を探していきます。つまり、「学校に安心して通える」ことも目指しています。

授業をとおして、どんなことを伝えたいですか?

具体例を通して、「子ども理解」が大事だということを伝えています。「子どもがどんなことをしたいのか」「どんなときにどういう行動を起こすのか」ということを理解していないと、授業がつくれません。どの教科でも、子どもたちの興味関心、特性をつかむ必要性は共通してあるのですが、体験重視の生活科にとっては、「子ども理解」は命です。理解できないと授業が成り立ちません。例えば、授業の休み時間に行う花壇の水やり、子どもはすぐ忘れてしまう。どうしたら忘れずに水やりに行かせることができるのか。子どもの「動線」を考えて布石を打つにはどんな方法があると思いますか?

また、子どもは意欲が右肩上がりのまま下がらないということはあり得ません。必ず意欲は下がります。生活科では支援といいますが、下がってきたときにどういうふうに支えるのか。「子ども理解」ができていないと、こたえは出せませんよね。

野田 敦敬 教授の授業を受けるには

愛知教育大学教育学部へ進学をする場合、一番近いのは理科です。が、授業の割り振りや担当があるので、授業で巡り合えるかは、運です。大学院の場合は、愛知教育大学大学院 発達教育科学専攻生活科教育領域に進学してください。

■このページの情報は、2009年9月の取材を元に作成された情報です。
情報利用については、「教授の授業」免責事項をご確認ください。

メッセージ

受験勉強以外に勉強してほしいこと ~中学生・高校生のみなさんへ~

子どもを理解するためには、子どもに触れ合う機会を増やすことです。地域活動に積極的に参加して、コミュニケーションをとってみましょう。これまで「参加していただけ」という人は、こんどはサービスする立場で関わってみましょう。

大学時代を有意義に ~大学生のみなさんへ~

大学時代は、一生のうちで大事な時間なので、目的意識をもって過ごして欲しいと思います。時間を無駄にしないように過ごして欲しいですね。何か打ち込めるものがあればいいと思うんです。僕は、剣道をやっています。愛知教育大学の剣道部の部長でもあります。

専門分野の立場から ~社会へ~

生活科は、現場の教員の中でも指導法が難しいと言われています。体験重視である点もそうですが、「大切なことは分かるけれども、今ひとつどうしていいかわからない」という教員も多いです。ですが、生活科の理念がしっかり浸透することで、防げることがあると思います。現代社会においては、身近な人とコミュニケーションをとれないばっかりに、思わぬ大事件になったりしていますよね。命への感性の希薄化、地域への連帯感の希薄化にも危機感を感じています。身近な人と上手に関わりあえる社会のベースを、生活科を通してつくれたらなと思っています。

昨今、子ども会の組織率が大変低いことをご存知ですか。5割を切っている都市もあります。今の親世代は、「人と関わりたくない」という考え方なのでしょうか。PTAの役員にしても、なかなか決まりませんね。人のために関わりを持ちながら行動することを嫌っていたら、社会が育っていきません。大人になってから「人との関わり」といった考え方を身につけるのはなかなか難しいと思いますが、子どもだから体験を通してできます。小さい頃に「人との関わり」についての考え方を持つのが大事なのです。生活科世代が親になったとき、「人との関わり」を重視できる、豊かな人間性を持った親になっていってくれるといいなと思います。

教えて先生!どうして勉強しないといけないの?

小学生のみなさんは、その勉強をすることによって自分の生活に生かせるかどうか考えてみましょう。そうすると楽しくなると思いますよ。中高生のみなさんは、目的を持って勉強してください。目的がないと嫌になってしまうのはしょうがないです。 僕の場合、子どものころ、月面着陸のアポロに熱狂していましたので、アポロに関する本ならなんでも読みたくて、そういう本を読もうとしたらですね、漢字がたくさんあって、そのとき、あぁ国語って大事なんだなと思いました。

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チャレンジ!大学の先生からの宿題

視線を50センチ下げていろいろなものを見てみましょう。50センチ違うだけでも、見えてくる社会が違います。その視線の高さと、今の自分と、感じ方がどんなふうに違うか、考えてみましょう。

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本の紹介

地域と共に学び合う学校づくり
愛知県岡崎市立六ッ美西部小学校(著)
野田 敦敬(監修)
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はじめよう食育―学級担任、養護教諭、栄養教諭が進める
愛知県西尾市立寺津小学校(著)
愛知県西尾市立寺津中学校(著)
長嶋 正實(編集)
野田 敦敬(著)
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野田研究室の理念

教員は、人との関わりがすべてですよね。それがうまくできないとやっていけません。僕の研究室では、人と関わる場面を積極的につくろうとしています。学部の4年生と大学院1、2年生の三世代での関わり合いを、僕の教育方針で大事にしていまして、2か月に1回、誕生会をやります。企画から全部、学生の手作りです。小学校の授業も兼ねて行うゼミ合宿もあるのですが、これらの企画も学生が行います。そういったことを通して、人との関わりと企画力を育てます。

「生活科」の研究室というと、楽しそうに見えるかもしれませんが、学生にとっては、課題もたくさんある研究室です。教育実習以外にも小学校現場へ出る機会が多くあり、実際の授業を行ったり、研究室内の誰かが行う授業の手伝いで5~6人で出かけたり。卒論が終わったらホッと一息する間もなく、学生は全員、日本理科教育学会東海支部大会で発表する決まりになっていたり。無理難題も容赦なく降りかかりますよ!

「生活科いらない」?

「ゆとり教育って、遊んでるだけなんじゃない?」と見られている面もある生活科ですが、「自立」というのが重要なキーワードなんです。

生活科が始まったころのエピソードにこんなことがありました。やはり、子どもの親からも「必要ないから、数学とか増やして」という意見を受けつつも生活科の授業を行っていたのですが、あるとき、「明日、買い物体験をするので500円持たせてください」という連絡を聞いたお母さんから、「それみたことか。うちは手伝いをちゃんとやらせているので、いまさら必要ない」というようなことを言われたわけです。でも、学校からの連絡なので、500円を子どもに渡したらですね、夜寝ている子どもを見たら、子どもが500円玉を握りしめていたというんです。子どもは楽しみにしていたんですね。

「いつものおつかい」とは別の体験を生活科の授業では行います。友だちや街の人と関わりながら、自分主体でする買い物を体験します。そんな子どもの姿を見たお母さんから、「生活科について(否定するだけじゃなく)、考えてみたいと思った」というお便りもいただきました。

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