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教授の授業:大学の枠を超えて、教授を紹介します。

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自分で枠をつくる力が求められる時代に。

同志社女子大学 教職課程センター

中川 美保子 特任教授 Nakagawa Mihoko

臨床心理学、学校臨床心理学

高校までの教科で関連するのは

倫理社会

「自分でも気づいていない自分の本性」なんていうものを言い当てられちゃったらどうしよう?!などと心配しながら、「教授の授業」取材班は、臨床心理士の中川先生の研究室を訪問しました。中川先生の専門は、心理学の応用分野のひとつである臨床心理学、そして学校臨床心理学。学校臨床心理学には、スクールカウンセリングや教育相談などが含まれます。

注:取材時と2011年4月以降とで所属大学が異なります(2011年4月に愛知教育大学から同志社女子大学へ異動)。

スクールカウンセラーってどんな人がなるのですか?

臨床心理学を学び臨床心理士になった人の中には、スクールカウンセラーになりたいという希望を持っている人たちがたくさんいます。臨床心理士になるには、指定された養成大学院で2年間勉強し、その次の年に資格試験を受けることになります。小学校・中学校・高校の先生が「臨床心理学を教育に活かす」ために、大学院に入学されるケースもあります。

スクールカウンセラーという職種が登場する以前は、教員や養護教諭の人がそういった仕事をしていましたし、今でもしています。それで十分な場合もあれば、専門性が必要な場合もあって、今後ますますスクールカウンセラーは注目されていくでしょう。ただし、スクールカウンセラーの仕事が重要視されているにもかかわらず、安定した就職先があまりないところが課題です。

臨床心理学は、どんな考え方をする学問ですか?

臨床心理学では、語られている言葉を大切に扱うと同時に「どうしてそう語っているのか」に注目し、言葉では直接表されていない心の動きに注目します。ここがこの学問の深みのあるところです。ある出来事に対して、「それは正しい(正しくない)」と即答する人より、結論に至る道のりで、ごちゃごちゃとあれもこれも考え悩む人、みんなが「正しい」と思っていることでも「どうかな?ほんとうに正しいかな?」と思う人、向いていると思いますよ。臨床心理学は、道徳のように、「正しい考え」とされるものが基準になるのではなく、常に「中立、白紙の状態でいよう」と思いながら考え続ける学問です。

性格的な「優しさ」は、どのくらい大事ですか?

臨床心理学に興味を持つ人に、「情緒的で優しい」人は多いと思いますし大事な要素です。ですが、情緒的なものを支えるのには、自分を律する厳しさや自分を支える理論がとっても必要です。優しさだけでは仕事になりませんし、理論的な方法論だけを知っていても仕事になりません。

大学院は、それまで自らが抱えてきた課題を相対化する力を養う期間でもあります。たとえば、人間関係になんらかの興味関心のある人には、自分の体験が元になっていることが多いのですが、カウンセリングでは、その自分の体験を直接持ち込むことは禁忌とされます。カウンセリングに自らの体験から生じる過剰な思い入れを持ち込むことは戒めなければならないとされています。ですからこのことを意識化するために、授業以外にも実際のカウンセリングや学外臨床実習を通して、自らの過剰な思い入れを断念する力を持つことを訓練します。このような力は言い換えると「父性的な力」と言えるかもしれません。

「父性的な力」とはなんですか?

そうですね。このことから連想される臨床心理学の用語としては、「面接構造を守る」とか「面接の枠組を整える」などが思い浮かびます。イメージとしては、化学反応に例えると、激しい化学反応には、耐久性の強いフラスコが必要というような感じとでも言いましょうか。しっかりと守ってくれる外側の器はとても大事で、それがカウンセリングでは、「父性的な力」と関連していると言えるのです。よく言われることですが、カウンセリングは「時間や場所が決められている」という枠があるからこそ、安心しておこなうことができるのです。

ただいつでもマニュアル通りに構造を守ればいいのではなく、時には柔軟に対応を考えて、枠をずらしながらクライエントを守ることも必要ですね。たとえて言うなら、四角い箱を、状況に応じてひし形にしてみる力も必要なんですよ。

枠って大事なんですね。

普段の生活においても、目には見えないだろうけれど、実は自分を守ってくれる枠組みが何もない状態で「自由にやっていいよ」と言われて「できる」人というのは、よっぽど力のある人だと思います。たとえば退社時間がはっきりと決められていない職場(枠ができていない職場)では、同僚がみな残業しているときにたとえ自分はもう帰りたいと思っていても「自分のやることはしたから、自分だけ先に帰るぞ」と、潔く職場を退社するのはむずかしいのではないでしょうか。実際にそれができずに、燃え尽きてしまう人も多いのです。現代はそれ以前と比べて、社会や集団が枠をつくってくれない、守ってくれなくなっていて、自分で自分の生きられる領域「枠」を作る力が求められる、個人の時代とも言えますね。でも、個人が単独でその力をつけるのは難しいですね。そんな時代だからこそ、個人に対応するカウンセリングが求められ、役立っているのかもしれません。

中川 美保子 特任教授の授業を受けるには

詳しくは、参考リンク先等をご確認ください。

■このページの情報は、2009年9月の取材を元に作成された情報です。
情報利用については、「教授の授業」免責事項をご確認ください。

メッセージ

受験勉強以外に勉強してほしいこと ~中学生・高校生のみなさんへ~

いろいろな情報に触れて、物事を考えてみたらどうでしょうか。情報源は、本やインターネット、生身の人など、なんでもいいです。情報に触れたときに、流されていくのではなく、立ち止まって自分で考えることが必要です。「これでいいの?」「自分ならこうする」など、自らの考えを持つことが重要だと思います。時には、学校の先生の授業のやり方を見て、反面教師にしてもいいですよ。臨床心理学はマニュアルの学問ではなく、自らが考えながら方向性を見出していく学問です。いわゆる、2=1+1の1+1の部分を何通りも考えてみてください。無限にありませんか?

専門分野の立場から ~社会へ~

「危機は転機」です。自分がすごく追い込まれたり、危機にあったら、「転機」だと考えてみてください。「危機」って日本語で書くとすごくネガティブな感じがしますけど、英語だと「クリティカルポイント」ですね。重要な分岐点です。そこのところで「力を貯めてやろう」「危機は転機だ」と思えるかどうかで、この社会は違って見えると思います。

教えて先生!どうして勉強しないといけないの?

昔に比べると、勉強したいと思ったときに勉強すればいい社会になってきていると思います。勉強したいものが見つかったときに、例えば手段として英語が必要な場合は、その手段も含めて勉強すればいいのではないでしょうか。人が社会とつながるための窓、それが勉強なんだと思います。人と関わるツールですね。昔だと、「高校くらいは出てないと」ってありましたけど、今は「高校中退もひとつの道かな」っていう社会になってきていますものねぇ。

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チャレンジ!大学の先生からの宿題

(1)臨床心理学を学ぶと、人の心がわかるようになると思いますか?

(2)世の中には、絶対に正しいことがあると思いますか?

考えてみましょう。 すぐに答えを出した人よりも、悩んだ人、向いていると思います。

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本の紹介

いじめ臨床 歪んだ関係にどう立ち向かうか(ナカニシヤ出版)
本間 友巳(編さん)
共著
第2章 いじめと子どものこころ-臨床心理学的な視点から- p.19-34
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不登校・ひきこもりと居場所(ミネルヴァ書房)
忠井 俊明(著)
本間 友巳(著)
共著
第6章 居場所としての適応指導教室―臨床心理学的な視点から p.117-137
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受賞作品

第十五回暁烏敏賞
(青少年育成部門)

お勧めの本

臨床心理学、カウンセリングへ興味を持たれた方にお勧めする本はこちら。

心理臨床と表現療法(金剛出版)
山中康裕(著)

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取材こぼれ話

「中川先生の趣味はなんですか?」という質問をしてみたところ、「趣味は麻雀です」という意外な答えが。学生時代、当時の全日本学生麻雀選手権に唯一の女雀士として出場し、雑誌の取材も受けたそうです!

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