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生産者の思いを消費者に伝えきる

岐阜大学 応用生物科学部 応用生命科学課程(食品生命科学コース)

中野 浩平 准教授 nakano kohei

食品流通工学、ポストハーベスト工学

教授の授業」取材班は、岐阜大学の中野浩平先生の研究室を訪問しました。

中野先生の専門は、一言でいうと「流通」。「教授の授業」取材班は、スーパーマーケットに並んでいる野菜は、収穫してからの日数が短いかどうかが、新鮮かどうかの決めてだと思っていました。しかし、「鮮度」は時間軸だけの問題ではないのでした。

流通というと、経済分野を想像しますが?

いいえ。「流通」といえば、まず社会学的な仕組みや「流通経済」をイメージする人が多いかもしれませんが、僕が専門にしているのは、「流通」の中でも、モノ(野菜や食品)の視点で見た「流通」です。ヒトの視点で見た「流通」ではなく、モノそのものを見ていきます。「流通」という言葉は幅広いので分かり難いですね。大学の中には、農学部の中の農業工学や園芸学の流れの一つとして設置されているところが多いようです。ただ、「品質保持」「物流管理」を専門にやっているところは、少ないかもしれません。学生が、この研究分野に入って、学会に行くと、意外と少ないなぁと思うようです。

研究はどんなところに活かされますか?

農家がすごく上手に、美味しく栄養いっぱいのものを作ったとしても、流通上の取扱いが悪ければ、その良さはどんどん減ってしまいます。僕の研究は、収穫したものが持っている良さや生産者の思いを、そのまま消費者に伝えるためにあります。

しかし、分野の研究者が少ないので、なかなか技術や仕組みが増えていかず、また、鮮度保持の考えが均一に普及しているとは言い難いのが現状です。たとえば、市内のスーパーマーケット数10店で、ホウレンソウを買ってきて鮮度を計る、という授業を行うことがあるのですが、ビタミンCの数値が倍ほども違うことがあります。ここには、鮮度管理の差が出ています。皆さんは、同じ市内で買える同じ野菜なら、ビタミンCがきちんと保持されている方を買いたいと思いませんか?値段も、そんなに違いません。

そんなことがあるんですね!10円でも安いものを求めて買いに走る人もいますが、ビタミンCが倍ならそっちこそ買いに走る女性が多そうです。

はい。消費者は、必ずしも安いものばかりを求めているわけではないと思います。鮮度管理への意識が高い産地や店舗が報われるようにしたいですね。消費者にアピールできるマークを普及させるなど、こちら側から仕掛けていかないといけないと考えています。

研究としての魅力を教えてください。

僕は最初、シミュレーションという世界に魅かれました。大学生のころは、ロールプレイングゲームが流行っていて、僕も楽しんでいたのですが、シミュレーションっていう世界は、「神様の手口を見れる」と言うんでしょうか。計算式ができあがれば、ひとつ数値を変えるだけで、実験しなくても結果が出てくる。もちろん、その計算式をつくるまではなかなかうまくいかないんですが。計算ミスもあれば、学問的に間違っているかもしれないですし。しかし、最後にピタリと合うという経験をすると、ゲームの面白さを超えて、夢中になっていました。

授業をとおして、どんなことを伝えたいですか?

野菜は、収穫後も生きてます。赤ちゃんを扱うように大切に扱ってください。パソコンやテレビのような工業製品の流通と生鮮食品の流通は、根本的に違います。パソコンなら流通中に処理速度が遅くなったりしませんが、野菜の場合は、間違いなく「(栄養素などが)減って」いきますし、流通前の段階でも品質が既に異なっています。収穫したものが運ばれている間には、いろいろな人間が介在していて、いろいろな思いや技術が存在しています。「流通」は、「生産者の思いを消費者へ伝える」という大きな役割を持っています。

中野 浩平 准教授の授業を受けるには

岐阜大学 応用生物科学部 応用生命科学課程へ進学してください。
詳しくは、参考リンク先等をご確認ください。

■このページの情報は、2009年12月の取材を元に作成された情報です。
情報利用については、「教授の授業」免責事項をご確認ください。

メッセージ

受験勉強以外に勉強してほしいこと ~中学生・高校生のみなさんへ~

スーパーマーケットの生鮮食品棚の陳列を意識的に見てください。そこには、いろいろな品質保持のテクニックがあります。何気ない包装に工夫があります。どんな工夫がされているか考えてみてください。輸入品と国産品の値段の違いも注意して見てみましょう。

コンビニエンスストアでは、ポテトチップスなどの加工食品の「表示」を見て、どんなルールになっているか考えてみましょう。また、「表示されていない」情報にも気づいてください。たとえば、「製造日」は表示されていますか?。表示されていないものは「なぜ表示されていないのか」を考え、調べてみてください。

大学時代を有意義に ~大学生のみなさんへ~

疑問に思ったことは、頭でっかちにならずに、すぐ行動にうつしてください。物事を慎重に考えるばかりではダメです。スーパーマーケットで商品のサンプリングをするときも、とにかくやってみる。そこから見えてくることがあります。学生のうちは、とにかくやってみる。

専門分野の立場から ~社会へ~

現在の流通は、鮮度保持に関してでさえも、基本的に効率主義になっています。あまり、食品そのもののことが考えられていません。しかし、これから先、増加していく安い輸入品に価格競争で勝つことはできるでしょうか?また、食の安全性、自給率を保てるでしょうか?いま、日本人がもともと持っている細やかさを活かし、効率優先主義から品質優先主義へ、物流のシステムを考えなおす時が来ていると思います。品質優先主義になれば、日本の農業や食生活はもっと健全になるのではないでしょうか。コスト意識も大切ですが、品質への投資をすることで、もっと農家や産地が稼げる体質になれると良いと思います。値段が高くても、安心・安全なものを求める消費者は存在しています。もちろん、全てをそうしてしまうことは求められていませんが、一所懸命やっている農家や流通には、相応の見返りを。農家や流通の頑張りを、しっかり消費者に届ける仕組みづくりが必要ではないでしょうか。

僕たち専門家は、産地や流通の頑張りを「保証」できる仕組みを作ろうと努力していますが、一方で、消費者には、「自分の舌を信じる」ことも忘れないでほしいと思っています。ニュースで「ブランド偽装」が話題になったりしていますが、保証されているという「マーク」とは別に、自分の舌の感覚も大切にしてください。

教えて先生!どうして勉強しないといけないの?

新しい発明・発見をするには、「直感」が大切ですが、その源になるのは、やはり知識の豊富さです。「知識なくして発明なし。」日頃の勉強で養うしかありません。

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チャレンジ!大学の先生からの宿題

(1)スーパーマーケットで、同じ野菜を3つ買ってきてください。次の状態で、それぞれの変化を観察しなさい。

  • 1つは、そのまま部屋に置く
  • 1つは、冷蔵庫へ入れる
  • 1つは、袋に入れて冷蔵庫へ入れる

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授業の感想

授業を受けた学生の感想や質問から一部をご紹介
「野菜についているラベル(【優】や【秀】など)が貼られる基準には、その産地独自で決められているものがある、というのを初めて知りました。ということは、他の産地との比較ではないということ?」
「私はメロンが好きなんですけど、上(木に近い方)と下では、上の方が(甘くて)良い。と分かりました」
「どうやって壊さないで甘さを推定できるんですか?」
「検査でスイカをたたくのは、品質に影響しないんですか?」
「光センサーという技術(甘さを見分ける技術)は、実際にはどのくらい普及していますか?」
「(流通に使われる)ダンボールにもいろいろあると知りました。中芯(なかしん)によって、強度が違うことを初めて知ったので、スーパーに行ったら見てみたいです」

元気な産地をつくろう

農業を元気にしないといかん。という思いがありますので、僕の研究室では、「流通」の鮮度・品質保持の研究とともに、「産地」をつくるという試みも行います。「綺麗な色の野菜の色素を何かに活かせないだろうか」とか、「休耕田を何かの畑にできないだろうか」「地域の新しい特産品をつくり、きちんと収益を上げるにはどうしたら良いだろうか」など。日々試行錯誤です。

「もったいないの精神」から食品保蔵の研究へ

「食べ物を粗末にするのはいけないこと。」だれもが納得する言葉です。この「もったいないの精神」は、食べ物が足りなかった時代から飽食の現代日本においても、・・・続きはこちら(岐阜大学コラムページへリンクしています)

乾杯の仕方も教えます

学生には、「一期一会」といつも言っています。学生のうちに、きちんと社会性を身に付けてほしい。何事も一所懸命な姿勢を持ってほしい。余談ですが、僕は、お酒の席での乾杯の仕方なんかも教えています。やはり、「流通」のような、人と人の間に入って何かする分野では、コミュニケーションの良し悪しは研究にも大きく影響します。人脈も重要です。僕も、話を聞いてもらえるようになるまで、何度もお酒を酌み交わしてきました。

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