人間工学、生体信号処理
美術、技術、家庭科、数学、物理
あなたが欲しいのは、「スタイリッシュでかっこいいけど、ちょっと乗りづらい車?」それとも「機能的で乗り心地は良いけど、ちょっと見た目がいまいちな車?」。というような、「見た目か?実用性か?」の選択で、今日も買い物(注:車ではない)がなかなか決まらない「教授の授業」取材班は、名古屋市立大学 芸術工学研究科デザイン情報領域、工学博士の横山先生の研究室を訪問しました。
文系、理系という枠組みではない、学際と呼ばれる分野です。
ここでは「芸術」を「デザイン」と言い換えると、デザインも工学も、目的があって、お客様がいて、お客様の要求に合わせて物をつくっていくという考え方が共通しています。内に秘めるものを表現すること自体を目的とする芸術家とは違います。
「芸術工学」で考えるのは、「人間にとって良いデザイン」です。「人間にとって良い」というのは、理論に基づく必要がありますので、高校までの教科では、数3や物理が近い。実際にデザインする対象は、建築もあれば、車、家庭用品とさまざまですので、美術・技術に加えて家庭科も近い教科です。人材としては、理論的に企画のできるデザイナーや、感性を備えたエンジニアを育てます。
美術と、数学や物理などの理系科目が同時にトップクラスである必要はありません。私はもともと情報工学出身の泥臭いエンジニアなので、デザイナーってかっこいいなって思っていますし、学部としても、いわゆる文系の学生も理系の学生もいます。それぞれ得意分野が違う友だちの発想を見て、お互いに刺激しあって欲しいです。芸術方面が得意な人は工学の知識を、工学方面が得意な人は美術を見る目を身につけていきます。
私の現在の研究としては、自動車の運転をしている人の居眠りを検知して刺激を与えて目を覚まさせる椅子(右の写真)の研究(イノベーションジャパン2009に出展)があります。つまり眠ったら起こす椅子ですが、起こし方をがんばって研究中です。実習の授業で学生がつくるものの中には、赤ちゃんを抱っこするためのスリング(抱っこひも)や、薬を付けた時に他のものを汚さない手袋などもあって、ほんとうに身近なところに芸術工学の考え方はあるんですよ。都市建築という規模の大きいもの、ものづくりとしての工業デザイン・プロダクトデザイン、ポスターなどのグラフィックデザイン、WEBサイトやアプリケーションなどのインターフェースデザイン、すべて理論に基づいたデザインをするのが「芸術工学」の特徴です。人間を中心に据えてデザインする考え方を学び、社会に貢献していきます。
まわりの人たちのことを考えて、その中で自分は何ができるのか、何をするべきかを考えることが重要です。そして、何事も前向きに考えて欲しいと思います。何か失敗しても、「あの失敗があったから、こういう方向に進むことができたんだ」と、全てをプラスの方向に考えられる人になって欲しいと思っています。
名古屋市立大学芸術工学部へ進学してください。2009年度までの実績では、学部入試前期日程は英語・数学重視で、後期日程は文系科目・実技重視の配点になっています。大学院への進学は、他大学からが約半数です。卒業後の進路としては、建築家、工業デザイナー、プロダクトデザイナー、グラフィックデザイナー、WEBデザイナー、CG・映像デザイナーなどのデザイナー職、建設や情報工学の技術者が想定されています。 詳しくは、参考リンク先等をご確認ください。
■このページの情報は、2009年11月の取材を元に作成された情報です。
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身の回りにある製品やポスターを、興味を持って見てみてください。「自分だったらどんなふうにつくるかな?」と、考えるクセを持ったり、不便だと感じた物については、「こんなふうに改善したら、こんなふうに良くなるんじゃないか?」などと考えてみてください。「人にとって良いもの」であるかどうかを見る目を養うことにつながります。また、かっこいいものや美しいものに素直に感動できることも、とても重要ですね。興味を持つきっかけになります。「かっこいいな、きれいだな」と思ったら、もう一歩踏み込んで、機能性にも目を向けることを意識してみてください。
一般的に、「お金を払って教えてもらえる」という恵まれた時間、お客様でいられる時間は、大学を卒業すると二度とありません。せっかく大学に入ったのなら、勉強するチャンスをアルバイトで潰してしまうのは、とってももったいないと思います。大学の4年間、6年間は、親にわがままを言っていいと思います。奨学金という方法もあります。卒業してしまうと、大学のような長い夏休み(2か月)はありません。勉強以外にも、海外に行くという選択肢もあるでしょう。また、大学の教員は専門性が高いので、自分の興味のあることを積極的に教えてもらいに行ってください。個性が強い人も多く、生き様を聞くだけでも、将来「あんなこと言ってた人いたな」って思いだして役にたつこともあるかもしれません。
ひとつめは、プロダクトデザインについてです。人にとって負担がなく快適に使えるモノ、人に自然に適合するモノが、「普通」になるといいと思います。とても難しいと思いますが、意識しなくても快適で、お節介過ぎずというのが理想ですね。例えば、病院の医療機器なんかも、もっと考えてデザインする余地があると思います。「病院のデザインを素敵にしたい」と考える学生さん、待っていますよ!
ふたつめは、ヒトのデータの扱い方についてです。人間工学でも、心電図や筋電図を測ったりするのですが、人間のデータって、実はすごく難しくて、個人差はありますし、10人が10人おなじような結果を出すには、ものすごく強い刺激を与えなければなりません。メディア等で、健康ブームの火付けが行われることがありますが、データ結果を意図的につくりだすことは、自重して欲しいと思っています。きちっとした学問的な知見に基づかずに、かなり意図的に結果を出していると思われることもあり、非常に怖いなと思っています。
アイデアは何もないところからは出てきません。将来何をするにしても、アイデアの種になるものをどれだけ持っているかが成功につながると思います。なんでも覚えられる若いうちに、知識という名前のデータベースにたくさんの種を仕込んでください。勉強は、知識を貯めるチャンスです。自分の身のまわりだけで知れることは限られていますが、勉強することによって、自分の知らない世界に触れるチャンスがたくさんできます。知らない世界のドアって、自分では開けられません。それを開けてくれるのが勉強です。最初は嫌々かもしれないけれど、用意された勉強によって知ることで、「こんな世界もあるんだ」って発見がきっとあると思います。その発見が将来につながるかもしれません。勉強というせっかくのチャンスを逃してしまうのは、とってももったいないと思います。
芸術工学研究科にある充実の設備を紹介します。